最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)411号 判決 1958年9月19日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士堀切真一郎の上告理由は別紙のとおりである。
上告理由第一点について。
論旨は、原判決が、町村合併促進審議会の意見を聴かないで知事が本件第二次勧告及び住民投票請求をした違法を認めながら、右勧告及び請求が無効でない旨を判示したのを非難するのである。
しかし町村合併促進法によれば、町村合併促進審議会は知事の諮問機関たることを主たる任務とするものであつて、同法一一条の三によるもこれらの行為に関する議決機関ではなく、また、同法四条二項によれば右審議会はその構成から見て所論のように関係者の利益代表機関ともいえないのであつて、同法は知事の行為を一層適切妥当なものとするため、知事の一定の行為についてその意見を聴くべき旨を規定したに過ぎないと解するのが相当である。町村の境界変更の勧告、住民投票の請求に関し知事が全く審議会の意見を聴かなかつたような場合は格別、本件の場合、知事は第一次勧告についてはその意見を聴いており、大体において地域を縮少したに過ぎない第二次勧告及びこれを実現するための住民投票請求について、知事が法令の解釈を誤りあらためて意見を聴く必要のないものと判断し意見を聴かないでこれらの行為をしたからといつて、すでに住民投票も行われ住民の意思も明示された後に、かかる違法を理由に本件第二次勧告及び住民投票請求を無効ということはできない。論旨援用の当裁判所の先例は、選挙の管理執行そのものに関する規定違反があつた場合の判示であつて、本件に適切でない。論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨は、原判決が選挙管理委員会は選挙の事前手続について判断する権限がないとし被上告人がした本件訴願裁決を支持したことを非難する。
選挙管理委員会は選挙や住民投票を行うべき場合であるかどうかについて判断権を持ち、従つて、住民投票の請求が権限のない者によつて行われたような場合、その無効を判断しなければならないことは所論のとおりである。しかし、本件の場合は、住民投票を請求する権限のある知事の請求があつたのであつて、前述のようにその前提手続には違法の点はあるけれども請求が無効とは考えられず、知事の権限の行使に対し、選挙管理委員会がその手続上の適否を審査し原判決認定のような違法を理由に住民投票の実施を拒否できるものではない。されば、原審が本件において、被上告委員会が知事の賛否投票の請求の当否を判断する権限なしとして上告人等の訴願を棄却したことを是認した判断は結局正当である。のみならず、住民投票は住民の意思を尊重する趣旨に因るものであるから、すでに住民投票が行われ住民の意思が表明された後に、その投票手続に違法の点があつて住民の意思が正当に表明されていないと判断される場合は格別、そのような主張もない本件において、所論のように住民投票の前提手続の本件のような違法のみを理由に住民投票を無効とすることはできない。論旨援用の大審院判決、当裁判所判決及び高等裁判所の判決は、いずれも本件と場合を異にし本件の先例となるものではない。論旨は理由がない。
以上説明のとおり本件上告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)